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導入事例
ExcelからSalesforceへ、独自の帳票フォーマットを守り抜きながら業務時間を50%削減。顧客への影響ゼロで実現した森ビルのソフトランディングDX

(右から)管理事業部 管理運営部 管理運営グループ 佐野 洋平氏 同グループ 幸重 真央氏
東京都港区を中心に六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズなどを管理運営する森ビル株式会社。管理事業部では入居企業からの受注・請求業務を長らくアナログ(紙・Excel)で管理しており、大型プロジェクトの開業に伴う入居企業の増加とともに業務負荷が深刻化していた。同社が掲げたテーマは「お客様に変化を感じさせず、内部の業務から効率化する」こと。帳票DXの導入により顧客体験を守りながらその両立を実現し、帳票処理時間を約98%削減、受注業務時間全体でも50%削減した。その取り組みを管理事業部 管理運営グループの佐野氏・幸重氏に詳しく伺った。
- 【課題】年間1,500件の入居企業からの受注業務がすべてアナログ管理 お客様ごとの個別対応が積み重なり運用が限界に
- 【選定】お客様への書類の体裁を変えず、受注業務を刷新 帳票フォーマットを再現できる帳票DXを選定
- 【運用・効果】顧客体験を変えず、受注業務時間を50%削減 案件増にも増員なしで対応を実現
- 【今後】社内DXの成果を足がかりに 顧客対応のデジタル化へ段階的に前進する
【課題】年間1,500件の入居企業からの受注業務がすべてアナログ管理 お客様ごとの個別対応が積み重なり運用が限界に
東京都港区を中心に、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズなど象徴的な用途複合施設を管理運営する森ビル株式会社。同社の管理事業部では、約100棟のビルの運営管理を担い、入居企業の点検やセキュリティカードの追加発行、個別設備のメンテナンスの受注から請求までを行っている。こうした業務が年間約1,500件にのぼり、お客様ごとの対応が求められる。
しかし長らく、これらの業務の多くがExcelや紙で管理されていた。担当者がお客様の要望に合わせ帳票を作成し、内容は現物管理。1件あたりの受注から請求処理に約90分かかっていた。件数が増えるにしたがって、運用の限界が顕在化していた。
「受注管理がすべてアナログの状態で、一元管理できていませんでした。社内のデータ活用や業務効率化といった業務変革の必要性を強く感じていました。」(幸重氏)
当時は一部業務で使っていたシステムの保守期限が迫っており、リプレイスも控えていた。これを契機に、受注・請求業務全体を抜本的に見直すプロジェクトが始動することになった。
【選定】お客様への書類は体裁を変えず、受注業務を刷新 帳票フォーマットを再現できる帳票DXを選定
改善プロジェクトにあたり、同社が目指したのが「お客様に変化を感じさせず、内部の業務だけを劇的に効率化する」ことだった。
「最終的にはお客様とのやり取りも電子化していきたいですが、いきなり全部変えようとすると合意形成やシステム調整で年単位のプロジェクトになってしまいます。まずは社内だけをデジタル化して、お客様に提出する帳票は紙のままでこれまでと変えない、という方針にしました。」(佐野氏)
帳票DXとの出会いは、佐野氏が所属する「申請ポータル事務局」を起点としていた。管理事業部内でSalesforceを活用した業務改善を推進するチームが、受注・契約管理業務への水平展開を提案したことがきっかけだ。
もともと幸重氏のチームではSalesforceを利用しておらず、受注情報をExcelや紙で管理していた。申請ポータル事務局からの「この業務にもSalesforceを活用できる」という提案をきっかけに、Salesforce移行と帳票DX導入が同時並行で進むことになった。帳票DXの「従来どおりの帳票をそのまま出力できる」という特性が、同社が掲げる段階的DXの方針と合致し、選定を後押しした。
「比較検討というより、実績と信頼から入った感じです。導入前の会話から、単にシステムの説明をされるだけでなく、私たちの思想をしっかり理解してもらえた。いくらデジタル化を推進しても紙が完全になくなるわけではないから、見慣れたフォーマットで出力できる機能も残す、という考え方です。目的を理解して伴走する姿勢が決め手になりました。」(佐野氏)

【運用・効果】顧客体験を変えず、受注業務時間を50%削減 案件増にも増員なしで対応を実現
帳票DX導入による最も顕著な変化が、帳票出力のスピードだ。
「導入前、1件あたりの受注から請求処理に約90分を要していました。中でも大きな負担だったのが、個別のExcel操作が必要で10分ほどかかっていた帳票発行プロセスです。帳票DXの導入により、この作業はわずか十数秒まで短縮され、約98%の削減を実現しました。さらに、業務フローのシステム化や会計システムとの連携によって他の作業も効率化され、業務全体で50%の削減を実現しました。大型プロジェクトの開業による案件増にも、人員を増やすことなく余裕を持って対応できています。」(幸重氏)
導入は2023年度から開始され、2025年度には全施設への展開が完了した。もとからExcelのフォーマットが存在していたため、ベンダーの支援を受けながら比較的スムーズに移行できたという。
お客様側への影響はほぼゼロに抑えられた。
「書類の見た目さえ変わらなければ、お客様への影響はありません。お客様との調整に時間を取られることなく、内部業務の効率化だけに集中できました。」(佐野氏)
また、それまでExcelで個別管理されていた受注データがSalesforceに一元化され、帳票DXがSalesforceのデータをそのままPDFとして出力する仕組みになった。帳票の現物管理がなくなったことで、「出力した書類と手元のデータが食い違う」というヒューマンエラーが解消。どのデータが最新かという混乱も同時に解決された。
「移行の際にすこし困ったのは、フォーマットの枠に対して文字数が多いと出力が2ページに渡ってしまうなど、これまでExcelで行っていたような微修正ができないという点です。結果としてそれが記載内容を本質的に見直す機会となりました。こうしたマインドセットの変化へと課題を昇華できたことは、私たちにとって予想以上の大きな収穫となりました。」(幸重氏)

今では現場担当者から「他の紙で出力する業務も同じように変えて欲しい」という要望が上がるほど、ツールへの信頼と活用意欲が浸透してきているという。
さらに、想定外のポジティブな展開も生まれている。当初は受注業務の請求書・契約書に限定していた活用が、他の書類にも広がりを見せているという。現場担当者だけではなく事務担当者からも「業務効率化を推進したい」という提案が上がるようになった。
「小さな成功体験が積み重なって、自分たちから業務改善を提案してくれるようになった。これが一番嬉しい変化でした。」(佐野氏)
【今後】帳票DXを基盤に 顧客対応のデジタル化へ段階的に前進する
受注業務のデジタル化というフェーズ1を達成した同社が、次に見据えるのはお客様向けのデジタル対応への進化だ。しかし、ここでも大切にするのは「段階的に、無理なく」という発想だ。
「今は社内処理をデジタル化した上で、アウトプットは帳票DXを活用し紙またはPDFでお客様に届けています。大事なのは、お客様側のニーズや時代の変化に合わせて、そのアウトプットをいつでもデジタルに切り替えられる体制が整っていること。社内基盤はできているので、アウトプットの仕組みだけ変えればすぐに対応できます。」(佐野氏)
不動産業界には、行政関係の提出書類やシステムダウン時のBCP対応など、どうしても紙が残る場面がある。しかし、アナログ・デジタルどちらにも対応できる状態を維持しながら体制を整えておくことで、「何があっても対応できる」基盤として帳票DXを位置付けている。
「紙の文化が根強い業界ほど、いきなり変えようとすると現場やお客様への負荷が大きくなります。でも今の帳票フォーマットを守りながら少しずつ進めていけば、すべてのステークホルダーに違和感なく受け入れてもらえる。今回それが証明できたと思います。」(幸重氏)
今後は商業部門や住宅部門への展開も検討中だ。部門ごとに業務の性質や紙への依存度が異なるが、受注・請求業務の改革で得た知見を活かしながら、帳票DXを軸とした業務改善の輪を広げていく。
お客様に変化を感じさせず、内部業務を変革する。DXのひとつの理想形とも言えるこのアプローチを見事に成し遂げた森ビルの取り組みは、紙文化の根強い業界でデジタル化を模索する多くの企業にとって、大きなヒントになるはずだ。
※記載されている内容は、取材当時のものです。(取材日:2026年4月10日)
